チャタレイ事件~わいせつ文書の頒布禁止と表現の自由~(最高裁昭和32年3月12日大法廷判決)
<事実>
出版社社長は、ロレンス著作「チャタレイ夫人の恋人」を翻訳出版した。
露骨な性描写があるのを知りながら出版し、一般読者多数に販売したことが、
刑法175条のわいせつ文書の頒布販売罪にあたるとして起訴された。
刑法175条(わいせつ物頒布等)
① わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。② 有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。
<判決>
第1審
わいせつ文書の出版禁止は憲法に違反しない。
訳書については、エロ本とは異なりわいせつ文書ではないが、わいせつ文書に類似したものである。
出版社社長を有罪、翻訳した者を無罪とした。
第2審
刑法175条は、性的秩序維持を目的とするもので、憲法に違反しない。
訳書をわいせつ文書であると判断、販売方法のいかんによってわいせつ文書になると判断した。
1審判決を否定した。
刑法175条「わいせつ文書」とは、従来の判例を是認する。
「性欲を興奮又は刺激せしめ、普通人の正常な性的道義観念に反するものをいう」
・羞恥心を害すること
・性欲の興奮・刺激をきたすこと
・善良な性的道義観念に反すること
その判断の基準は、「社会通念」である。
なにがそれにあたるかは、裁判官によって判断される。
社会通念の変化によっても変わらない普遍的規範
・羞恥感情の当然の発露としての性行為の非公然性の原則
上記の原則を守り、社会を道徳的なみだれから守らなければならない、という。